昭和32年発行の「金魚愛玩六十年」より
審査の心構えについての記述があります。大変興味深い内容です。私は審査員経験もありませんしその力量もありませんが、審査に対する考え方とその歴史を学ぶことは審査評価を受ける魚作りを目指している以上有益であることは間違いありません。自分自身の勉強という意味を含めここに記します。
******
審査の心構えとしては他に較べて骨格の逞しいものを第一条件とし、次いで泳ぎの素直なもの、鱗(こけ)並み揃い、色艶の良いものを選ぶ、又、上見で見て苦にならぬ疵(きず)はできるだけ我慢すること、五、四歳以下の若魚特に当歳魚は先行き(未来)を慎重に考慮すること、魚に対しては飽くまでも大切に取り扱うこと。大体以上の諸点を十分に体得して処置することが審査員に課せられた役目です。
(中略)
かくして選ばれた東西大関といえども他に較べて勝るということで審査員の目で絶対に良いと認められたものではないという反省点を持って見る必要があります。
又審査の標準を特に頭、尾、泳ぎなど部分のいずれかに重点を置くかをあらかじめ定めることは禁物です。又姿の良否や疵、欠点の軽重はいずれもその程度によって斟酌(しんしゃく=相手の事情や心情をくみとること。また、くみとって手加減すること)これらすべてを総合し初めて良否を定めなければならないので、金魚の審査はなかなか容易なことではありません。
金魚の良し悪しを定めるに尺度となるべき基準を設けず、すべからく各自の主観に拠って極めるべきで、そこには各自の見解は多かれ少なかれ必ず相異を生ずるは当然なことです。ただしこの道の練達者同士の間では互の見解は略々一致を見るといい得るものです。
会に出品された金魚に強いて順序を定める審査員の立場では、審査員各自が或る程度自己の主観を矯めて(ためて=正しく直す)みないことには会の運営に円滑を欠く虞れ(おそれ)があります。蓋し(けだし=まさしく)個人の主観は往々にして第三者からその人特有の癖と誤解を受けること無きにしも非ずです。
*******
著者がこの本を書いた昭和31年。その11月3日に第一回の日らん全国大会が開催されています。
今から60年以上も前の第一回全国大会開催の前に、今でも通ずるであろう訓示としてのクオリティが十分に備わった審査の心得がこれほどまでに品位、客観性、寛容性をもって明確に記されていることが驚きです。
そこで気になるのが著者の阿部舜吾さんという方はどんな方だったのか、ということです。
日らん全国大会初期の役員や審査員、優等入賞者にその名前は見当たりませんでした。
で阿部さんのお名前をGoogleで検索してみたらびっくり。お父様が「幕末期の武士(吉田藩士)、明治期の官吏、法典調査会査定委員、教育者、明治生命保険創立者。従五位勲四等旭日小綬章」というすごい方で、阿部さんも含めご兄弟のほとんどが慶応大学をご卒業されているという、大変に立派な家柄の方でした。
この本の質の高さの背景の一つはここにあるとみて間違いないでしょう。
***
話は変わって、今朝我が家のらんちゅうが産卵していました。
この3匹は東部大会東大関他、品評大会や研究会で数々の優等魚を生み出した超当たり腹の兄弟魚。この3匹も今年の観魚会の第2回研究会で入賞しています。
大関の仔は大関にあらずとはよく言うもののやはり期待してしまいます。大関の仔は大関にあらずを体験してみるのもまた勉強です。だから来春は仔引きしてみたいと強く願っていた3匹でした。
今日の産卵行動でその研究会の西大関と東小結がオス、前頭がメスであることが確定しました。
もちろん今日の卵は流しますが、この時期に一度産んでおいてくれると安心。来年仔引きしたかったこの3匹はメス1オス2という理想の組み合わせだったことに加え、それぞれがちゃんと生殖能力があることも確認できました。
昨年も秋に産んだメスが年明けに産卵においては大活躍してくれましたので、今回も期待できます。
あまり変化のないこの時期のらんちゅう飼育ですがちょっとうれしい出来事でした。